【萬物相】「権力のラッパ吹き」になった韓国ラジオ時事番組

 カナダの学者マーシャル・マクルーハン氏は著書『人間拡張の原理-メディアの理解』で、耳だけに依存するラジオはリスナーの参加度が低いため、「情報を一方的に注入するメディアだ」と書いた。この主張は、1938年10月に米国で発生した「宇宙戦争」事件に顕著に現れている。映画監督オーソン・ウェルズが演出したラジオドラマ「宇宙戦争」を聞き、実際に火星人が襲来してきたと信じ込んだリスナーたちは銃を手に街に飛び出したり、避難をしたりするほどだったという。

  19世紀末、陸と漁船の間で無線連絡をするために発明されたラジオは、1920年代に入って商業化され、二度の世界大戦を経て本格的なマスメディアとなった。特に政治家たちはラジオを愛用した。ヒトラーは全国民にラジオを普及させて自身の演説を聞かせたが、「ドイツ人の理性をマヒさせるほど」だったそうだ。ナチスがモスクワのすぐ近くまで進撃した時、パニックに陥ったスターリンが思いついたのもラジオだった。スターリンは「絶対にモスクワを離れてはいけない」と演説し、ソ連軍の瓦解を防ぐのに一定の役割を果たしたという。

  文在寅政権発足以降、ラジオの「権力寄り傾向」が深刻になっている、とソウル大学言論情報研究所が明らかにした。特に通勤時間帯の時事番組で顕著だとのことだ。ある番組では政府に不利な問題で弁護する際に障害者をののしる言葉まで使っていた。地上波放送のあるラジオ番組は「韓国で一番大きなスピーカー」を自任し、政府見解を代弁する放送をしている。別の地上波ラジオ番組は小学生と電話で話している時、「朴槿恵(パク・クネ)前大統領と李明博(イ・ミョンバク)元大統領ではどちらの方が悪いか」と質問した。通勤時のラジオ番組は権力への忠誠度を競い合う場になっているようだ。

  情報通信政策研究院が一昨年、「ラジオをどのような機器で聞いているか」と質問したところ、「カーオーディオ」が81%と圧倒的な1位だった。一般的なオーディオ機器は21.8%だったが、年々減っている。ラジオを聞く場所も車が76.9%で最も多く、自宅やオフィス、公共交通機関は微々たるものだ。

  ラジオ時事番組もメディアの1つだが、そのメディアが現在の権力を批判せずに、それを拡散するラッパ吹きになり、権力を批判するメディアを攻撃している。いや、権力のラッパ吹きにとどまらず、自ら盾にまでなっている。MBCラジオ時事番組のプロデューサーを務めたキム・ドイン放送文化振興会理事は「毎日同じ時間帯に放送され、自然と接することになるラジオ番組は、小雨で服がいつの間にかぬれてしまうように、リスナーの思考や世論に重大な影響を与える」と語った。ナチスの宣伝大臣ゲッベルスは「大衆は最初は疑うが、繰り返せば結局は信じるようになる」と言った。韓国のラジオ界で実際に起こっていることかもしれない。 韓賢祐(ハン・ヒョンウ)論説委員

朝鮮日報 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/03/29/2019032980055.html

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