【萬物相】あだ名といじめ

 英国の作家ウィリアム・ゴールディングの長編小説『蠅(はえ)の王』は、子どもたちだけを乗せた飛行機が無人島に不時着した後、その島で繰り広げられる悲劇を描いている。少年たちは互いを名前で呼び合うが、太っていてのろまな少年だけは「ブタ」という意味のあだ名「ピギー」と呼ばれる。このあだ名が邪悪な力を発揮する。あだ名呼びが繰り返されれば繰り返されるほど、少年たちはピギーが自分たちと同じ人間であるという事実を忘れていく。いじめられたピギーは仲間はずれにされて死ぬ。1950年代の小説だが、いじめが人間性をどのように破壊していくのかを見抜いた作品だ。

  あだ名は悪いことばかりではない。名前を直接呼ぶのは礼を欠くと考える伝統的な儒教社会では、他人を尊重する意味から別称である「字(あざな)」と「号(ごう)」を使った。儒教の成人式である「冠礼」の時にもらって一生使う「字」よりも、性格・趣味などを反映させて自ら作ったり、知人がつけたりする「号」の方が現代のあだ名に近い。朝鮮時代の儒学者・李珥(イ・イ)の号は「栗谷(ユルゴク)」だが、友人ならそのまま「栗谷」、後学なら「栗谷先生」と呼んだ。李珥の母親で、「師任堂(サイムダン)」と呼ばれた朝鮮時代の女性書画家・申仁善(シン・インソン)のように、居所の名である堂号を号としてつけることもあった。インターネット上のIDも現代版の「号」と言えるだろう。

  ローマ帝国の土台を築いたカエサルがあだ名だったという記録もある。カルタゴのゾウ部隊を倒したカエサルの祖先が、ゾウという意味のカルタゴ語「カイサイ」をあだ名として得たのが姓になったという。あだ名の方が本名よりも有名なケースもある。「野球王ベーブ・ルース」の本名はジョージ・ハーマン・ルース・ジュニア、「バスケットボール界のスーパースター、マジック・ジョンソン」の本名はアービン・ジョンソン・ジュニアだ。米国のトランプ前大統領は政敵を嘲笑(ちょうしょう)するためにあだ名を使った。年老いたジョー・バイデン大統領のことは「スリーピー(眠そうな)・ジョー」、トランプ氏より身長が低いマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長のことは「ミニ・マイク」と呼んだ。

  日本であだ名を禁止し、名前の後ろに「さん」を付けて呼ばせる小学校が増えている。読売新聞によると、約160の公立小学校がある京都市でも、ある校長が「この10年で『さん付け』は半数近くにまで広がっている」と語ったという。あだ名は友達をからかうのに使われ、いじめを招くという理由からだ。一部の会社では硬直した上下関係を崩そうと、「常務」「部長」などの肩書きではなく「さん」に統一しているが、これを学校でいじめ追放のために導入したということだ。

  いじめの弊害は深刻だ。社会的な関係を断たれたも同然のいじめは、ストレス対応能力が未熟な青少年にとって受け止めがたい衝撃となる。加害者を厳罰に処するばかりが対処法とも言えない。スポーツ界のスター選手や芸能人が子どものころ、同級生らをいじめていたために活動を休止するのもやるせない。子どものころから互いに尊重する言語習慣を持つように導き、不幸を未然に防止する事例は参考にしてみるだけの価値がある。 金泰勲(キム・テフン)論説委員

朝鮮日報 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/06/03/2022060380152.html

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