【コラム】「沈めて、浮かび上がらせる」という村上春樹の創作手法

 カキを揚げるときは表を45秒、裏返して15秒。
  これを読んで、一人で笑ってしまいました。作家の村上春樹にインタビューした『みみずくは黄昏(たそがれ)に飛びたつ』(文学トンネ刊)。この本の中で村上春樹は、創作の秘密を一つ公開しています。それは「沈めて浮かび上がらせる」。ある一つの原石のような物語を、意識の表層レベルではなく自分の意識の地下深くまでしっかり沈め、地上に再び浮かび上がらせるというものです。沈めて浮かび上がらせることなく最初の状態のまま文章にすると、深く響かない-というのが村上春樹の主張。そうして、リアルでありつつ茶目っ気たっぷりの例を挙げます。カキを油に沈め、浮かび上がらせて作るカキフライ。最初に引用したように、表と裏の時間までしっかり決めて言っています。
  小説だけがそうなんでしょうか? 「Why?」というシリーズコラムでは、カバーストーリーとしていつも長いインタビューを載せます。200字詰めの原稿用紙で、長いときは50枚。短いときでも30枚。新聞の各紙面のトップ記事がおおむね200字詰め10枚前後だということを考えると、少なからぬ分量です。
  少なからぬ数の読者が「新聞に載るインタビューは相手の言葉を100%そのまま転載したもの」だと誤解しています。そんなはずがありません。普通の人は、筋道立てて話をするのはさほどうまくなく、一つのテーマについて一貫してもおらず、論理的でもありません。読む側も同様です。読者には、30枚の原稿を最後まで読んであげる忍耐力も度量も、ほとんどありません。当然ながら筋書きがあるようにせねばならず、話は再構成されます。多くの場合、インタビューは、される側(インタビュイー)とする側(インタビュアー)の和音です。村上春樹が言うように、「沈めて浮かび上がらせる」作業も行って。
  村上春樹は小説家ですが、インタビューもしました。彼の作品の一つ、『アンダーグラウンド』が代表例です。地下鉄サリン事件の被害者と会って集めた記録です。村上春樹は言います。採録したインタビューもまた「リコンストラクション(Reconstruction. 再構築)」であると。ですが、誤解なさらないように。事実に関しては何ら取り除いたり、足したりしませんから。
  経験ある記者ならば、それぞれインタビューの原則があるものです。私にとってその第一は、こういうものです。質問者は下がって、相手を際立たせる文章に。もちろん前提はあります。同意して支持するインタビュイーであること。 魚秀雄(オ・スウン)週末ニュース部長

朝鮮日報 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/08/24/2018082401683.html

コメント

このブログの人気の投稿

MBNの業務停止効力中断

「19世紀式の自主にかまけた586世代、20?30代の登場が望まれる」

韓国政府の救援隊がラオスに出発 医療スタッフら20人